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「グレイスレス」を紹介

今回は、「グレイスレス」をご紹介します。2023年の芥川賞候補作品です。作者は、昨年度の芥川賞候補にも選ばれた「ギフテッド」の著者でもある鈴木涼美さんです。ギフテッドはこちらでご紹介しているので、ぜひ読んでみてください。

オススメする人

  • 日常が好きな人
  • 2つの世界を行き来している人

所要時間

3時間

概要

 私は祖母と二人暮らしをしていた。私はポルノ女優にメイクをする仕事をしている。祖母との世界とポルノの世界を行き来する私の日常を描いた作品になっています。大きな事件が起こるわけではないですが、2つの世界を行き来する私の中の気持ちが丁寧に描かれていて、最後にはある決断を下します。

感想

 今回は、私と祖母の関係、私と母の関係の2つの観点から感想をご紹介したいと思います。

 1点目は、私と祖母の関係です。私と祖母は一緒に暮らしています。祖母は家の中や庭、近所に自分の世界を創っていて、その世界を満喫しています。それに対して私は、祖母の世界と仕事場であるポルノの世界を行き来しています。その様子は、自分の行き場が確定していなく、どこか様々な世界をふわふわと浮遊しているようでした。自分の世界を持っている言わば圧倒的主観の祖母と、自分の世界を持たず言わば圧倒的客観の私の共同生活が日常的かつ丁寧に描かれている作品でした。個人的には祖母の世界が楽しそうだなと思うのですが、自分の世界を築くまでにどれだけ他人の世界を浮遊してきたのかなと考えました。そういう意味では、私は祖母に至るまでの過程の中にいるのではないかと思います。

 2点目は、私と母の関係です。母は海外にいて、時々私に手紙を送ります。一見放任主義や娘に関心がないように思えるのですが、手紙の中で娘の仕事の話をしたり、海外に来ることを誘っていたり親子という関係はしっかりと保っています。「ギフテッド」でもそうだったのですが、鈴木先生の作品は娘と母の関係が絶妙な関係で描かれていると思いました。お互いに依存しているわけではなく、お互いに強い興味があるわけではない。でも、決して離れることのない関係性があるように感じます。親子の絆と言ってしまえばそれまでなのですが、絆という綺麗な言葉ではなく本当にボロボロの腐れ縁のような関係で親子の関係が描かれているのが興味深いなと思います。本作の私と母もそのような関係で、娘の人生に関わる絶妙なタイミングで母親の手紙が登場するあたりが、母の存在を際立たせているように感じました。

 大きな起承転結はない小説ですが、日常の人間関係や自分の生きる世界の移り変わりを丁寧に描いた作品だと思いました。おすすめです!!!!ぜひ読んでみてください!!!

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